舞台を中心に活動していた柄本明の名を全国区に押し上げた決定打が、1979年から放送された名作ドラマ『3年B組金八先生』(第1シリーズ)でした。演じたのは、理科教師の「カンカン」こと野村孝一郎先生です。
黒板を指で引っ掻くような神経質さと、どこか掴みどころのない飄々としたキャラクターは、熱血教師・坂本金八(武田鉄矢)の対極として鮮烈なインパクトを残しました。「教室に立っているだけで不穏な空気が漂う」と評されたその怪演は、テレビドラマにおける教師像のステレオタイプを根底から覆すものでした。
さらに映画界での評価を決定づけたのが、1998年公開の今村昌平監督作品『カンゾー先生』です。第二次世界大戦末期の瀬戸内海を舞台に、肝臓病の治療に奔走し「ヤブ医者」と揶揄されながらも愚直に生きる医師・赤城風雨を熱演。第22回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ、数々の映画賞を総なめにし、名実ともに日本映画界の頂点へと登り詰めました。