「大人になっても子どもの歯が抜けない」「歯医者でレントゲンを撮ったら、下の永久歯がないと言われた」――SNSやQ&Aサイトでも、こうした驚きや戸惑いの声が数多く投稿されている。実は、永久歯が規定の28本より少なくなる現象には、明確な医学的根拠が存在する。
大人の歯が足りない理由の筆頭に挙げられるのが「先天性欠如(先天性無歯症)」である。日本小児歯科学会が実施した大規模疫学調査によると、約10人に1人(約10%)の割合で永久歯が1本以上欠如しているという衝撃的な実態が判明している。男女差はわずかに女性に多く見られるが、誰に起きても不思議ではない頻度である。
永久歯が生えてこない経緯を紐解くと、胎児期から乳幼児期にかけて歯ぐきの骨の中で形成されるはずの「歯胚」と呼ばれる細胞の塊が、何らかの原因で作られないことに起因する。先天性欠如の原因と真相については、現代医学において以下の要素が複合的に関係していると考えられている。
- 人類の進化と退化現象:火を使い、調理された柔らかい食品を摂取する生活が定着したことで、咀嚼器官としての顎骨が縮小。それに伴い、歯の数そのものが淘汰される方向へ進化しているという説。
- 遺伝的要因:特定の遺伝子多型が歯胚形成のシグナル伝達に影響を及ぼしていることが近年の分子生物学的研究で解明されつつある。
- 全身的・環境的要因:母体の栄養状態や妊娠期の感染症、薬剤の影響などが示唆されることもあるが、大半は明らかな病歴のない健康な人に偶発的に生じる。
先天性欠如が起きやすいのは、下顎の第二小臼歯(前から5番目の歯)や上顎の側切歯(前から2番目の前歯)である。この部位に永久歯が存在しない場合、生え変わるべき乳歯が抜けずにそのまま残る「残存乳歯(大人乳歯)」となる。乳歯は永久歯よりも根が短くエナメル質も薄いため、20代〜30代で歯根が吸収されて抜け落ちてしまうリスクが高い。早期にパノラマレントゲン撮影を行い、後継永久歯の有無を確認しておくことが口内の健康寿命を左右する。