けんちんうどんの歴史を遡ると、鎌倉時代に創建された禅寺の巨刹・鎌倉の「建長寺(けんちょうじ)」に辿り着きます。初代住職であった蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)禅師が、修行僧のために野菜の皮やヘタ、崩れた豆腐を無駄なく集め、ごま油で炒めて煮込んだ汁を作ったのが始まりとされています。この料理が「建長汁(けんちょうじる)」と呼ばれ、時代を経て訛り「けんちん汁」へと変化したという説が極めて有力です。
この鎌倉発祥の精進汁が、なぜ関東各地、とりわけ茨城県の郷土料理として深く根付いたのでしょうか。茨城県は古くから全国有数の蕎麦や小麦の産地であり、肥沃な関東ローム層で育つ根菜類の宝庫でもありました。農民たちが収穫したばかりの地場野菜をふんだんに使ったけんちん汁に、自家製の手打ちうどんや蕎麦を合わせて食べる食文化が、厳しい農作業の合間を支えるスタミナ食として定着したのです。
茨城の街道沿いには現在も「けんちんうどん」「けんちんそば」を看板に掲げる名店が点在し、地域によっては大根や人参だけでなく、芋がら(ずいき)や地元特産の凍みこんにゃくを加えるなど、土地の恵みを凝縮させた独自の進化を遂げています。