SFの次は、悠久の時が流れるハイ・ファンタジーの世界だった。『葬送のフリーレン』における魔法使いフェルン役は、市ノ瀬の真骨頂とも言える「引き算の美学」が結実した好例だろう。感情を爆発させることは極めて稀で、淡々とした抑揚の中に、師であるフリーレンへの深い愛着、戦いに対する覚悟、そして年相応の拗ねや照れが幾重にも織り込まれている。
声を荒らげることなく、息遣いのテンポと語尾の落とし方だけで感情の揺らぎを表現する技術は、並大抵のものではない。視聴者は彼女の平熱の台詞回しに耳を澄ませ、言葉の裏側に潜む微細な心のひだを読み取ろうとする。この能動的な視聴体験を生み出せる点において、彼女はファンタジーという舞台装置の中に、紛れもない「生きている人間」を息づかせることに成功した。