1980年(昭和55年)に木造ホテル建築として国の重要文化財に指定された旧三笠ホテル。その建築様式の最大の特徴は、19世紀後半のアメリカで流行したスティックスタイル(木骨様式)を取り入れた構造デザインにあります。外壁に幾何学模様のように木骨を露出させ、軒先には精緻な持ち送り(ブラケット)や唐草模様の装飾が施されています。
内部に足を踏み入れると、明治の職人たちが手仕事で刻んだ幾何学模様の寄木細工(フローリング)が広がり、階段の手すりには一本の木から削り出された美しいカーブを描く親柱が鎮座しています。客室のドアノブやカーテンボックス、シャンデリアのアームに至るまで、当時の工芸美が隅々まで息づいています。
今回の保存修理事業では、これらの歴史的意匠を寸分違わず守りながら、現代の耐震基準に適合させるという極めて難度の高い工法が採用されました。壁の内部や床下に特殊な炭素繊維補強や目立たない耐力フレームを組み込むことで、「外観・内観の歴史的風情を一切損なわずに震度6強クラスの地震に耐えうる構造」へと生まれ変わった点は、近代建築修復の金字塔と評価されています。