「命の授業」の代名詞とも言えるのが、黒板に大きく書かれる独自の漢字解説です。長年にわたる読書と研究から彼が編み出した解釈は、言葉の意味をポジティブに反転させる鮮烈なメッセージ性に満ちています。
特に受講生の胸を強く打つのが、「辛い」と「幸せ」の構造を説く場面です。 「お前たちが味わってきた苦しみは『辛(つら)い』という字だ。だが、この字をじっと見てみろ。上に横棒を『一本』足すだけで、何の字になる?……そう、『幸(しあわせ)』になるんだ。今のお前たちに必要なのは、あと一歩踏ん張る辛抱の『一』なんだよ」 この力強い言葉に、うつむいていた少年たちが一斉に顔を上げます。
さらに、弱音を吐きがちな心を戒め励ます名言として広く知られるのが、次の解説です。
- 「吐」と「叶」:「人は生きていれば弱音を『吐(は)く』。口偏にプラス(+)とマイナス(-)で『吐く』だ。だけどな、苦しい時こそマイナスの弱音を少しずつ減らしてみろ。マイナスを取ったら、口偏にプラスで『叶(かな)う』という字になる。夢はそうやって叶えるんだ」
- 「命」:「『人』は『一』度は『叩』かれる。叩かれて痛みを覚えるからこそ、人の痛みがわかる人間になれる。それが『命』という漢字の教えだ」
- 「難」:「困難や災難がない人生を『無難な人生』という。だが、難が有るからこそ『有難(ありがた)い』んだ。苦難はお前たちを強くするためのプレゼントだ」
学術的な漢字学(古代文字の甲骨文や金文研究)の観点から見れば、これらは正確な歴史的語源とは異なります。しかし、ゴルゴ松本自身も「語源の学問的な正しさを競っているのではない」と明言しています。過酷な境遇に折れそうな心を支えるための「認知行動療法的リフレーミング(物事の枠組みを再定義し、前向きな意味を与える技法)」として、これほど直感的かつ強力に機能するツールは他にありません。