医学的な見地から言えば、一度完全に壊死してしまった脳細胞そのものが元通りに蘇ることは極めて困難です。それでも「脳梗塞が治った」と言える状態、すなわち自立して発症前と変わらない生活を送れる割合は約3割から4割存在します。統計的にも、軽症例や迅速な治療が行われたケースでは、脳梗塞が完治に近いレベルまで回復する確率は決して低くありません。
後遺症が残る人と残らない人の決定的な違いは、主に次の3点に集約されます。
第1に「閉塞した血管の太さと詰まっていた時間」です。細い血管のラクナ梗塞であればダメージは局所的で済みますが、太い主幹動脈が詰まる心原性脳塞栓症などでは広範囲が壊死するリスクが高まります。第2に「側副血行路(迂回路となる血管)の発達度合い」、そして第3が何よりも「発症から治療開始までの圧倒的なスピード」です。
後遺症なしで退院していく患者の多くは、異変を感じた直後に救急車を呼び、脳細胞が完全に死滅する手前の「ペナンブラ(可逆的な虚血領域)」が残っている段階で血流を再開させています。脳の可塑性(生き残った神経ネットワークが失われた機能を肩代わりする力)を最大限に引き出せるかどうかが、運命の分かれ道となります。