公式の募集要項や間取り図だけでは決して見えてこないのが、実際の生活空間が帯びている独特の質感です。数々の「都営住宅内装写真ブログ」やSNSのコミュニティ、実際に入居を果たした居住者の証言を丹念に検証すると、民間賃貸ではまず遭遇しない団地特有のリアリティが浮かび上がってきます。
築40年超の都営住宅2DKに入居した30代女性は、自らのブログで鍵を受け取った初日の衝撃を次のように綴っています。
「ドアを開けた瞬間、昭和の祖父母の家にタイムスリップしたような感覚でした。畳は真新しい青畳に張り替えられていてい草の清々しい香りがするものの、壁はコンクリートに直接ペンキを塗っただけの無機質な仕上げ。カーテンレールは旧式のアルミ製で、窓の鍵はクルクル回すネジ締まり錠でした。最初は途方に暮れましたが、照明を暖色系に変え、北欧風のラグを敷いただけで見違えるように温かみのある空間になりました」
現場取材から浮き彫りになる共通の課題は以下の3点です。
- コンセントと電気容量の不足:昭和時代の設計思想に基づいているため、各部屋にコンセントが1〜2箇所しかなく、タコ足配線が必須となる。また、住戸全体の契約アンペア数が30A〜40A程度に制限されている団地が多く、エアコン2台と電子レンジを同時に使うとブレーカーが落ちるリスクがある。
- 洗濯機置き場の狭さと排水トラップ:室内に洗濯機置き場が確保されていても、最新の大型ドラム式洗濯機が収まらない幅であったり、排水ホースを直接床の穴に差し込む旧式タイプで防臭・防虫対策が必要になるケースがある。
- 気密性と結露・カビ対策:コンクリート直壁の住戸は冬場の外気の影響を直接受けるため、北側の部屋の窓サッシや押し入れ内部に大量の結露が発生しやすい。除湿機やすのこ、サーキュレーターの常時稼働が欠かせない。
一方で、入居者の多くが口を揃えて絶賛するのが「日当たりの良さと風通し」です。現代の民間密集住宅とは異なり、都営住宅の敷地は十分な棟間距離を取って設計されているため、2階以上の住戸であれば低層階であっても南向きの窓から一日中陽光が差し込みます。また、壁芯計算の民間マンションに比べて公営住宅は内法(うちのり)計算に近い感覚で広さが確保されており、「表示上の専有面積(40〜48㎡)よりも体感面積が広く感じる」という声は少なくありません。