牛が精肉になるまでには、大きく分けて「と畜解体ライン」と「食肉カット(脱骨・部分肉加工)ライン」の2つの段階が存在します。屠殺から精肉までの流れは、法律(と畜場法)と厳しい衛生マニュアルに則り、無駄のない一連のシステムとして確立されています。
1. 生体受入・係留と食肉衛生検査所による生体検査
処理場に搬入された牛は、まず「係留所(けいりゅうじょ)」で休息を取り、輸送ストレスを緩和させます。ここで都道府県などの食肉衛生検査所に所属する獣医師(と畜検査員)が、1頭ごとに歩行状態や呼吸、体温、外観の異常がないかを厳密にチェックする生体検査を実施します。病気の疑いがある個体はこの段階で隔離され、ラインに入ることは決してありません。
2. スタンニング(気絶処理)・放血・剥皮
牛に苦痛を与えないよう、専用の器具(キャプティブ・ボルトなど)を用いて瞬時にスタンニング(気絶処理)を行います。意識を失わせた直後に頸動脈を切断して放血させます。迅速かつ完全な放血を行うことが、肉の鮮度保持と臭み防止において決定的な要素となります。
その後、懸垂(吊り上げ)状態で頭部と後肢を切り離し、専用の剥皮機と職人のナイフによって皮を丁寧に剥いでいきます。皮を傷つけず、かつ肉側に脂を残す絶妙な刃の入れ方に牛解体職人技術の真価が現れます。
3. 内臓摘出と背割り(脊柱縦断)
腹部を切開し、白内臓(胃・腸)と赤内臓(心臓・肝臓・肺)を慎重に取り出します。内臓を傷つけて内容物が肉に触れると交差汚染の原因となるため、ここは極めて慎重な作業が求められる難所です。摘出された内臓は、後述の厳格な内臓処理方法に従って別ラインへ送られます。
内臓摘出後、背骨の中心に沿って巨大なバンドソー(帯鋸)で左右真っ二つに切断します。これを「背割り」と呼び、左右に分かれた状態のものを「枝肉(えだにく)」と呼びます。
4. 枝肉検査・洗浄・冷蔵保管
背割りされた枝肉は、獣医師による厳密な病理解剖学的検査(と畜検査)を受けます。筋肉、リンパ節、骨などに異常がないかを確認し、合格したものだけが洗浄され、0〜2℃前後の冷却冷蔵庫に吊るされます。この状態で24〜48時間以上かけて芯温を下げ、筋肉を落ち着かせます。
5. 枝肉格付けと脱骨整形・部位分け手順
冷却された枝肉は、日本食肉格付協会の格付員によって枝肉格付け基準に基づく等級(歩留等級A〜C、肉質等級1〜5)が判定されます。その後、専門の加工施設へ運ばれ、骨を外して余分な脂肪やスジをトリミングする「脱骨整形」を経て、ロース、ヒレ、モモ、バラなどの部分肉(パーツ)へと分割されていきます。