映画ファンの間で長年語り継がれている「金具屋=『千と千尋の神隠し』の油屋モデル説」。スタジオジブリの公式見解としては特定の単一モデルを定めておらず「様々な温泉旅館や歴史的建造物から着想を得た」とされていますが、金具屋の外観や重厚な木造四階建ての佇まいは、制作関係者が参考資料として訪れた場所の一つとして広く知られています。日没後にライトアップされた瞬間、石畳の温泉街に浮かび上がるその姿は、まさに映画の世界へ迷い込んだかのような錯覚を覚えます。
宿の創業は鍛冶屋として栄えていた江戸時代中期の1758(宝暦8)年に遡ります。敷地内で温泉が湧出したことから湯宿へと転身し、1936(昭和11)年に完成した木造4階建ての「斉月楼」および「大広間」は国の登録有形文化財に認定されています。当時の職人たちが一本一本選び抜いた銘木を使い、釘を極力使わない宮大工の技法で組み上げた建築様式は、現存する木造多層建築の中でも屈指の完成度を誇ります。
毎夕17時30分頃から開催される宿泊者限定の「金具屋文化財見学ツアー」では、九代目の館主自らが館内を案内。斉月楼の吹き抜け構造や障子に施された繊細な細工、富士山や月を模した意匠など、ガイドブックには載っていない建築の秘密を惜しみなく解説してくれます。宿泊した際は必ず参加したい看板イベントです。