クロスマッチとは?輸血事故を防ぐ交差適合試験の手順と主・副試験の差

クロスマッチとは?輸血事故を防ぐ交差適合試験の手順と主・副試験の差

クロスマッチとは?輸血事故を防ぐ交差適合試験の手順と主・副試験の差の真相について、分かりやすい解説を取りまとめてご紹介します。

一般の人々の間には「ABO血液型が一致していれば、輸血で重大な拒絶反応は起きない」という根強い誤解が存在します。しかし、これは医学的に見て極めて不完全な理解です。

第1の盲点は、遅発性溶血性輸血副作用(DHTR)のリスクです。輸血前のクロスマッチや抗体スクリーニングを実施した時点では、患者体内の不規則抗体の量が少なすぎて(検出限界以下)、試験管内では「陰性(適合)」と判定されることがあります。ところが、輸血によって再び抗原が体内に入ると、数日から1〜2週間後に免疫記憶が刺激されて抗体が爆発的に再産生(アナムネスティック反応)されます。その結果、じわじわと輸血赤血球が破壊され、貧血の進行や黄疸、発熱を引き起こすのです。クロスマッチをパスしたからといって、100%の安全が永久に保証されるわけではありません。

第2の盲点は、赤血球以外の血液成分が引き起こす重篤な副作用です。交差適合試験が主に対象としているのは「赤血球抗原に対する抗体」です。しかし、近年の輸血関連死亡原因の上位を占めるのは、肺胞に急性の浮腫が生じる「輸血関連急性肺障害(TRALI)」や、急激な循環血液量増加によって心不全を来す「輸血関連循環過負荷(TACO)」です。これらは血漿成分中の白血球抗体(抗HLA抗体、抗HNA抗体)や物理的な輸液速度に起因するものであり、赤血球のクロスマッチでは検知できません。

さらに視野を広げると、「クロスマッチ」という言葉は輸血だけでなく臓器移植の世界でも頻繁に用いられます。それがリンパ球クロスマッチ検査です。腎臓移植や肝臓移植の前に、レシピエント(移植を受ける人)の血清とドナー(提供者)のリンパ球を接触させ、フローサイトメトリーや補体依存性細胞傷害試験(CDC法)で解析します。ここで陽性反応が出た場合、レシピエントがドナーのHLA(ヒト白血球抗原)に対する特異的抗体を持っていることを意味し、移植した瞬間に血流が途絶して臓器が壊死する「超急性拒絶反応」を引き起こすため、移植手術は原則として断念せざるを得ません。同じ「クロスマッチ」という名称であっても、対象とする細胞と免疫機構が大きく異なる点は知っておくべき重要な事実です。

鈴木 陽菜
著者

鈴木 陽菜

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