喧嘩札の命は木材そのものの質にある。長年培われてきた伝統木工芸品製造業の知見において、樹種の選定は妥協の許されない領域だ。日本各地の産地を束ねる伝統工芸品産業振興協会の資料を紐解いても、緻密な木目を持つ木材の希少価値は年々高まっている。
最高峰として君臨するのは、薩摩産の「本黄楊(ほんつげ)」だ。緻密な繊維構造を持ち、刃物の彫り跡が驚くほど滑らかに出る。使い込むほどに黄金色から艶やかな飴色へと変化する様子は、まさに一生モノと呼ぶにふさわしい。一方、重厚な存在感を求めるなら「黒檀(こくたん)」や「紫檀(したん)」が選ばれる。水に沈むほどの比重を持ち、漆黒や赤褐色の深い色合いが胸元を引き締める。手頃でありながら経年変化を力強く楽しめる「欅(けやき)」も根強い人気を誇る。木材それぞれの比重、硬度、香りを吟味し、自らのライフスタイルに合った一本を選ぶことこそが、喧嘩札選びの醍醐味である。