臨床の現場で最も混乱とヒューマンエラーが発生しやすいのが、「シリンジ採血と真空管採血の違い」における分注の順序です。ホルダーを用いた真空管直接採血と、シリンジで血液を引いてから各採血管へ注入する分注作業では、安全確保の優先力学が根本から異なります。
真空管採血では、ホルダー内の針先がゴム栓を刺すたびに添加剤を拾い上げるリスクがあるため、「添加剤の影響を受けやすい生化学」を「強力な添加剤を持つEDTA」より先に穿刺します。しかし、シリンジ採血後の分注作業では、シリンジ内にある血液が徐々に凝固していくタイムリミットとの闘いになります。
日本臨床検査標準協議会の指針において、シリンジ分注時の順番は以下のように明示されています。
【シリンジ分注の推奨順序】
1. 血液培養ボトル(無菌性の確保最優先)
2. 凝固検査用(微小な凝固塊の発生が致命的となるため、速やかに抗凝固剤と混和)
3. EDTA血算用(血小板凝集を防ぐため、早期の抗凝固処理が必要)
4. ヘパリン用
5. 生化学・血清用(本来凝固させて血清を分離するため、遅れて凝固が進んでも問題ない)
6. 血糖検査用
シリンジ採血では、シリンジ内で血小板が活性化して微小血栓(マイクロクロット)が形成されるのを防ぐため、「凝固・EDTAといった抗凝固剤入りチューブを優先して分注する」のが正解です。真空管採血と同じ感覚で生化学を先に分注すると、後回しにされたEDTA管や凝固管の中で血液が固まり始め、血小板数の偽低値やAPTTの異常延長を引き起こします。
また、シリンジ採血時の採血時の溶血防止対策も極めて重要です。シリンジの内筒(ピストン)を力任せに急激に引くと、血管内や針の内腔に強い陰圧(ずり応力)がかかり、赤血球膜が破綻して溶血が生じます。分注時も針を外さずに強い圧力で押し込んだり、泡立たせたりすることは厳禁であり、真空管の自然陰圧に任せて静かに流入させることが求められます。