医療情報の発信が増えた昨今、インターネット上では「便が黒い=即座に胃がん」「赤い=大腸がん」といった極端な言説が散見され、過度な不安を煽る事例が目立ちます。しかし、現実の臨床現場では、食品や薬剤に起因する偽陽性のケースが極めて高頻度で発生しています。
代表的な盲点が鉄剤やサプリメントによる便の黒色化です。貧血治療で処方される硫酸鉄水和物などの経口鉄剤や、健康維持を目的とした市販の鉄分サプリ、チャコール(活性炭)製品を服用すると、吸収されなかった成分が便を漆黒に染め上げます。また、赤ワインの過剰摂取、ブルーベリーや海苔、イカ墨パスタを食べた翌日にも黒色便が出現します。食事性のものであれば、粘り気や異臭はなく、摂取をやめて24〜48時間経過すれば本来の茶褐色へと自然に戻ります。
同様に、赤色の便についても、ビーツ(赤カブ)や赤唐辛子を大量に使った料理、トマトジュースの大量摂取が原因となる「偽血便」が存在します。ネットの真偽不明な情報に踊らされてパニックに陥るのではなく、「ここ24〜48時間以内に何を食べ、どんな薬を飲んだか」を冷静に振り返る客観性が欠かせません。
しかし、ここで最大の落とし穴となるのが「自己正当化のバイアス」です。人は不安なときほど、「きっと昨日食べたキムチのせいだ」「昔から痔の持病があるから大丈夫だ」と、都合の良い解釈に逃げ込む心理傾向(正常性バイアス)が働きます。食事の心当たりがない場合や、心当たりがあっても2日以上連続して異常色が続く場合は、迷わず病的な異常を疑うべきです。