大泉洋と三谷幸喜のコラボレーションは、舞台『子供の事情』や映画『清須会議』、ドラマ『真田丸』『鎌倉殿の13人』と長年にわたり築き上げられてきました。三谷作品における大泉洋の起用法には、他の演出家にはない明確な特徴が見られます。それは「大泉洋の人間的魅力と滑稽さを最大限に引き出した上で、最も残酷な運命のどん底に突き落とす」という劇作家特有の美学です。
演劇論および心理学的な観点から分析すると、三谷幸喜は大泉洋が持つ「観客との心理的距離を一瞬で縮める共感誘発力」を熟知しています。道化(コメディアン)としての軽妙さで観客の防衛本能を解除させ、無防備になった心の隙間にシリアスな刃を突き立てる手法です。『真田丸』の信之においては「笑われ者でありながら最も過酷な重責を背負わされる男」を描き、『鎌倉殿』の頼朝においては「親しみやすい男が絶対権力を得て怪物化していく過程」を描き出しました。
大泉自身もメディアのインタビューにおいて、「三谷さんの脚本は本当に恐ろしい。演じている僕自身が『頼朝、お前いい加減にしろよ』と思うような酷いセリフが平然と書かれている」と苦笑交じりに語りつつも、全幅の信頼を寄せて台本の一行一行と対峙していたことを明かしています。この強固な信頼関係があるからこそ、表層的な勧善懲悪を超えた多層的な人間ドラマが成立するのです。