中世の一遺物が、20世紀以降に世界的観光アイコンへと跳躍した最大の契機は、1953年公開の不朽の名作映画『ローマの休日(Roman Holiday)』です。主演を務めたオードリー・ヘップバーン(アン王女役)とグレゴリー・ペック(新聞記者ジョー・ブラッドレー役)が、ローマ市内の名所を巡る逃避行の途中でこの場所を訪れるシーンは、映画史に燦然と輝く名場面として知られています。
このシーンでペック演じるジョーは、伝説を語りながら真実の口に手を入れ、まるで噛み切られたかのように袖の中に手を引っ込めて叫び声をあげます。それを見たヘップバーンが本気で驚愕し、恐怖から安堵へと変わる愛らしい叫びと笑顔を見せる一連の流れは、ペックが監督のウィリアム・ワイラーと事前に仕組んだ完全なアドリブでした。台本にはない本物のリアクションをカメラに収める演出手法が見事に功を奏し、真実の口は「恋人たちが訪れてお互いの愛を確かめ合うロマンティックな聖地」として再定義されたのです。