巫女が神前で鈴を打ち振る最大の理由は、「神霊の招来(神迎え)」と「空間・参拝者の浄化(祓い)」にあります。神道の観念において、清浄で高周波な音色は邪気を祓い、神聖な存在の降臨を促す合図とされてきました。古来、目に見えない神仏や自然の精霊と心を通わせるための通信具として「音」が用いられてきた背景があります。
神楽舞で使用される「神楽鈴(かぐらすず)」の構造にも深い象徴性が宿っています。一般的な神楽鈴は、上段に3個、中段に5個、下段に7個の合計15個の鈴が配されています。これは古代中国由来の奇数を陽とする思想や、七五三の瑞祥数を取り入れたものであり、豊穣と生命力の充実を表しています。鈴の下に結ばれた五色(緑・黄・赤・白・紫)の「五色布(神楽緒)」は陰陽五行説に基づく万物の調和を示し、鈴を振る行為そのものが宇宙の運行を模倣する神事なのです。
また、鈴の音には人の魂を活性化させる「魂振り(たまふり)」の役割もあります。静止した日常から意識を覚醒させ、生命力を内側から呼び覚ます力があると信じられてきました。巫女が手首をしならせ、一定のリズムで鈴を鳴らす所作は、参拝者一人ひとりの心身の澱みを削ぎ落とす徹底した浄化のプロセスに他なりません。