結婚指輪を左手の薬指にはめる習慣は、古代エジプトや古代ギリシャ・ローマ時代にまで遡ります。当時の解剖学では、左手の薬指から心臓へと直接つながる太い血管(Vena Amoris=愛の血管)が存在すると信じられていました。感情や魂が宿るとされた心臓と直結する指に愛の証である輪をはめることで、相手の心をつなぎ止め、永遠の誓約を交わすという意味合いが込められたのが発祥とされています。
また、精神的な象徴にとどまらず、日常生活における実用的な利便性も大きな要因です。人口の大多数を占める右利きの場合、左手は右手よりも日常動作での使用頻度が低く、なかでも薬指は単独で動かしにくいため、大切な貴金属や宝石を傷つけたり紛失したりするリスクが最も低い指でもありました。神聖な儀礼性と道具としての保護の観点が重なり合い、左手薬指という位置が確立されていきました。
キリスト教の宗教儀礼においても、16世紀の英国国教会における祈祷書制定などを経て「父と子と聖霊の御名において」と唱えながら親指、人差し指、中指と順に触れ、4番目の薬指に指輪を収める儀礼形式が成文化された歴史があります。