ワンスアポンアタイムインハリウッド解説|ラストの意味と歴史改変の真実

ワンスアポンアタイムインハリウッド解説|ラストの意味と歴史改変の真実

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本作の結末において、観客が目撃するのは史実とは正反対の「圧倒的な暴力によるカルト集団の殲滅」です。1969年8月8日の深夜、ハリウッドのシエロ・ドライブに現れたカルト集団の若者たちは、史実通りであればロマン・ポランスキー監督の邸宅へと侵入し、身重のシャロン・テートらを虐殺するはずでした。しかし劇中では、隣家に住む落ち目の俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)が泥酔状態で彼らを怒鳴りつけたことをきっかけに、標的がリック邸へと変更されます。

麻薬タバコで酩酊したスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)と愛犬ブランディ、そしてプールで優雅にフローズン・マルガリータを飲んでいたリックの手によって、侵入者3人は完膚なきまでに叩きのめされ、最後は物置に眠っていた小道具の「火炎放射器」で焼き尽くされます。この凄惨かつ痛快なヴァイオレンス描写の後に訪れるのが、隣家の門扉が開き、生き延びたシャロン・テート(マーゴット・ロビー)がインターホン越しにリックを温かく邸宅へと迎え入れるラストカットです。

なぜタランティーノ監督は、過去作『イングロリアス・バスターズ』でナチス指導者を映画館で皆殺しにした手法を、再びこの事件で用いたのでしょうか。監督自身が米メディアのロングインタビューで語ったところによると、その意図は「映画という魔法によって、理不尽に奪われた未来とハリウッドの無垢な時代を取り戻すこと」にありました。タイトルにある『ワンス・アポン・ア・タイム…』は、英語圏におけるおとぎ話の決まり文句「むかしむかし、あるところに」を意味します。つまり本作は、現実の凄惨な悲劇を塗り替え、「もしもあの夜、隣にタフなスタントマンと火炎放射器を持つ男が住んでいたら」という願いを描いた、映画人から映画への極上のファンタジーだったのです。

中川 明日香
著者

中川 明日香

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。