「標高が最も高い山=最も命を落としやすい山」という直感は、高所登山の世界では通用しません。山岳遭難統計を専門に収集するヒマラヤン・データベースの累積記録を照合すると、エベレストの死亡率がおよそ3.5%前後にとどまるのに対し、世界第2位のK2は約22%、第10位のアンナプルナI峰に至っては27%超という戦慄すべき数値を叩き出しています。登頂者の4人に1人以上が命を落とす計算です。
なぜ、標高で劣るK2やアンナプルナがこれほどまでに過酷なのか。現場に足を踏み入れたアルピニストたちの証言や登攀ルートの構造から、決定的な違いが浮かび上がります。
パキスタン北部にそびえるK2は、別名「非情の山(サベージ・マウンテン)」と称されます。エベレストの標準ルート(南東稜)には緩やかな雪上歩行区間が多く存在するのに対し、K2には平坦な場所がほとんど存在しません。取り付きから山頂まで、傾斜45度以上の氷雪壁と脆い岩肌が延々と続きます。標高8,200m付近に位置する難所「ボトルネック」では、頭上に垂れ下がる巨大な氷塔(セラック)がいつ崩壊するか分からない状況下で、トラバースを強いられます。加えてカラコルム特有の突風と急激な気圧低下が退路を断ちます。
一方、標高8,091mのアンナプルナI峰を死の山たらしめている主因は「予測不可能な雪崩の頻発」です。すり鉢状の巨大な地形は雪を溜め込みやすく、気温のわずかな変化や風の息づかいひとつで、稜線全体を覆い尽くす大規模な表層雪崩が発生します。どれほど卓越した登攀技術を備えていても、巨大雪崩の直撃を受ければ生存の余地はありません。登山史に名を刻んだ歴戦の名クライマーたちでさえ、この山の気象の罠に呑み込まれ、帰らぬ人となっています。