ワールドカップ開催地アメリカ・カナダ・メキシコの3カ国共催というフォーマットは、華々しいメガイベントの側面を持つ一方で、ピッチに立つ選手と応援に駆けつけるサポーターに途方もない試練を突きつけます。本大会は、西海岸のバンクーバーやロサンゼルスから、東海岸のニューヨーク・ニュージャージーやマイアミ、そしてメキシコシティに至る全16都市に分散して行われます。
現場取材を進める欧米のスポーツジャーナリストたちが声を揃えて警告するのは、「移動と気候の超格差」です。メキシコシティ(標高約2,240メートル)やグアダラハラのような高地では、平地と比べて酸素濃度が約20%低下します。息苦しさと乳酸の蓄積が選手を蝕む一方で、アメリカ南部テキサス州のダラスやヒューストンでは、夏場に気温40度・湿度70%を超える過酷な猛暑が待ち受けます。さらに、西海岸と東海岸を行き来する場合、3時間の時差と4,000キロを超える航空移動が不可避となります。
かつてカタール大会では、すべてのスタジアムが同一都市圏に収まり「ホテルを変えずに全試合を戦える」という極限の快適さが保証されていました。しかし今大会は正反対です。ある現役代表選手が特番インタビューで語った「ピッチに入る前のコンディショニングと睡眠の質だけで、勝敗の半分が決まってしまうのではないか」という告白は、決して誇張ではありません。FIFAは地域クラスター(東西・中央ブロック)によるグループ分けを採用し移動抑制を図る方針を掲げているものの、決勝トーナメントを勝ち進めば広大な大陸の横断は避けられません。
SNSやサポーターコミュニティでも、「ホテル1泊で500ドル(約7万5000円)を平気で超えてくる」「都市間の国内線フライトが遅延したら試合に間に合わない」といった阿鼻叫喚の声が早くも上がっています。現地観戦を計画するファンにとっては、かつてないロジスティクスの緻密さが求められる大会となります。