今や国民的コンテンツとなった『孤独のグルメ』。その始まりは1990年代半ば、扶桑社の『月刊PANJA』誌上にさかのぼる。漫画家の故・谷口ジロー氏の緻密で重厚な画風と、久住氏の脱力しながらも深みのあるテキストが見事に融合し、それまでのグルメ漫画の常識を根底から覆した。
当時の漫画業界において、食といえば料理対決や至高の味覚を競う展開が主流だった。しかし本作が描いたのは、しがない輸入雑貨商の井之頭五郎が、仕事の合間にひとり店に入り、己の直感だけを信じて飯を食う姿だ。久住氏の取材手法は一貫している。ネットの評価や口コミに頼らず、自らの足で歩き、店構えや暖簾のくたびれ具合、漂う匂いを皮膚感覚で察知して飛び込む。その現場主義が生み出すリアリティこそが、作品に揺るぎない説得力を与えているのだ。