歓声を切り裂く鋭い動き。試合展開を一変させたあのプレー、あるいは決断の瞬間、彼は一切の迷いを見せなかった。控室へと続く暗い通路で、かつて彼が残した言葉がある。「不安がないわけじゃない。だが、恐怖を理由に足を止めるくらいなら、最初からこの場所に立っていない」。そのストイックな姿勢こそが、幾重ものプレッシャーを跳ね返す最大の武器となっていた。
周囲の期待が膨らむ一方で、プレッシャーの重圧は増すばかりだったはずだ。しかし本人はいたって冷静だった。毎日のルーティンを淡々とこなし、コンディションを極限まで高めていく。試合直前のアップで見せた集中力は、まさに研ぎ澄まされた刃そのもの。同行したスタッフの一人は「余計な雑音を完全にシャットアウトしていた。彼の周囲だけ重力が違っているようだった」と振り返る。