本作の最大の特徴は、クラリネット(B管)、ヴィオラ、ピアノという特異なトリオ編成にあります。当時、室内楽の主役といえばヴァイオリンやチェロが定番であり、この3つの楽器を組み合わせた楽曲は前代未聞でした。この編成が生まれた背景には、モーツァルトの親密な人間関係がありました。
初演時のメンバーとして記録されているのは以下の3人です。
- クラリネット:モーツァルトの無二の親友であり、当時のウィーン宮廷楽団の名手アントン・シュタードラー
- ピアノ:モーツァルトがピアノを教えていた名門貴族の令嬢フランツィスカ・フォン・ヤカン
- ヴィオラ:ヴァイオリン以上にヴィオラの演奏を好んだモーツァルト自身
華やかな高音を担うヴァイオリンをあえて外し、温かみのある中低音を得意とするクラリネットとヴィオラを選んだことで、従来の室内楽にはないベルベットのようにまろやかで親密なハーモニーが生まれました。ヤカン家のサロンで親しい仲間同士が純粋に音楽を愉しむために書かれたプライベートな誕生背景が、この奇跡的な音色のブレンドを生み出したのです。