今回の世界的発見を支えたのは、近年凄まじい勢いで技術革新が進む「文化財デジタル修復産業」の力だ。従来は肉眼や高精細写真でしか確認できなかった絹本や紙本の深層が、超高解像度赤外線分光イメージングによって可視化された。
解析によって浮かび上がったのは、完成作の裏側に執拗なまでに書き直された下書きの線だった。90歳の老の手によるものとは思えぬほど鋭く、迷いのない線の群れ。北斎は息を引き取る寸前まで、線一本の角度、落款の位置に至るまで完璧を追い求めていた。最新デジタル技術は、狂気とも言える北斎の妥協なき美学を鮮明に証明してみせたのだ。