建物そのものがひとつの文化財と言っても過言ではない。かつて養蚕農家として使われていた邸宅を丁寧に改修したこの場所は、古民家再生・日本建築の粋を集めた空間だ。太いケヤキの柱や漆喰壁が放つ質感は、手仕事の温もりを今に伝える。一角には伝統的建造物群保存地区を思わせる風情が漂い、訪れる者の歩みを自然と緩めさせる。
近年、地域の風土や食文化そのものを目的に旅をするフードツーリズム・国内観光が大きな注目を集めている。この店はまさにその牽引役だ。東京や関西圏など遠方から車を走らせてくる旅行者も珍しくない。縁側の席に腰を下ろし、手入れの行き届いた坪庭を眺めながら料理を待つ時間は、日々のせわしなさから解放される至福のプロローグと言える。