カバー文化がここまで隆盛を極めた根底には、原作者である傘村トータ 贖罪 本家が持つ揺るぎない楽曲強度が横たわっています。2018年にニコニコ動画およびYouTubeへ投稿された本作は、派手なエレクトロサウンドや過剰な転調を多用する当時のボカロトレンドとは一線を画し、極限まで無駄を削ぎ落としたピアノ一本と歌声のみで構成されていました。
使用されたボーカロイドの選定も極めて象徴的です。人間味のあるかすれ声と独特の温もりを持つ歌声ライブラリ(Fukase等)を巧みに調声し、機械でありながら生身の人間以上に切迫した感情を宿らせることに成功しました。劇伴音楽を思わせるクラシカルかつリリカルなピアノのコード進行は、メロディの切なさを何倍にも増幅させます。
過剰な装飾音やドラムビートを排除した「引き算の美学」が貫かれているからこそ、歌い手ごとの息遣いや声の質感、感情の乗せ方が赤裸々に浮き彫りになります。カバーする側にとってはごまかしが一切利かない過酷な舞台であり、それゆえに歌い手自身の魂が試される特別な楽曲としてリスペクトされ続けているのです。