ネット上の教育アドバイスや旧来の学校指導において、未だに根強く推奨されているのが「間違えた漢字はノートに10回ずつ書いて身体で覚えろ」という反復訓練です。しかし、認知心理学および近年の脳科学的見地から見れば、この手法は5年生の配当漢字に対して最も非効率的かつ有害な学習法と言わざるを得ません。
人間が意味のない文字列や複雑な記号を覚える際、漫然と同じ動作を繰り返すと、脳はエネルギー消費を抑えるために「無意識のオートパイロット状態(作業化)」に入ります。5回目以降は、漢字を理解するのではなく「マス目を埋めること」自体が目的化し、脳の記憶中枢である海馬はほとんど刺激されません。その結果、10回書き終えた直後には書けても、翌朝には綺麗さっぱり忘れてしまうという「努力の空回り」が生まれます。
さらに危険なのが、書き順(筆順)を無視した書き殴りです。5年生の複雑な漢字において筆順を無視すると、文字の骨格(重心)が狂い、トメ・ハネ・ハライの識別が曖昧になります。学校の定期テストや中学受験において、採点官は「正しい筆順で書かれたか」を線の重なり方やバランスから瞬時に見抜きます。機械的な書き取りは、悪癖を筋肉に刷り込んでいるだけに過ぎません。