スミ入れ作業の直後、あるいは数時間が経過した段階で、プラスチックが突如としてパキリと音を立てて砕け散る現象があります。ネット上では「マーカーの不良品ではないか」と疑う声も散見されますが、これは製品の欠陥ではなく、工業・化学分野で「ケミカルクラック(環境応力亀裂/ソルベントクラック)」と呼ばれる明確な物理化学反応によるものです。
プラモデルに多用されるポリスチレン(PS)やABS樹脂は、長い高分子ポリマーの鎖が絡み合って剛性を保っています。しかし、スナップフィット構造を採用しているガンプラは、ダボとピンを強く勘合させることで、組み立てられたパーツ内部に常に外側へ押し広げようとする「残留応力(内部引張応力)」を抱え込んでいます。
そこにガンダムマーカー 流し込みスミ入れペンに含まれる有機溶剤が接触すると、溶剤分子が高分子ポリマーの隙間に急速に入り込み、分子同士の結合を緩めてしまいます。外へ広がる力(テンション)と溶剤による分子の結合力低下が同時に発生した箇所からミクロ単位のクラックが発生し、最終的に目に見える破断としてパーツが真っ二つに割れるのです。
特に危険視されるのが、フレームや変形ギミックに採用される「ABS樹脂」への塗布です。ABS樹脂は耐衝撃性に優れる反面、有機溶剤への耐性がPS樹脂以上に低く、溶剤を急速に吸収する性質を持っています。メーカーの取扱説明書にも「ABS樹脂への使用は破損の恐れがあるため避けてください」と明記されている通り、組み立て済みのABS関節に流し込みマーカーのペン先を当てる行為は、自らパーツを破壊しにいくようなものです。
このトラブルを防ぐためのガンダムマーカー ABS樹脂 破損対策としては、以下の3原則を徹底しなければなりません。
- パーツを組み立てる前の「ランナー状態」でスミ入れを行う:ダボのハメ込みテンションが一切かかっていないフリーな状態であれば、溶剤が浸透してもケミカルクラックの発生確率は極めて低くなります。
- ピン穴の周辺やパーツの合わせ目・肉薄部に流さない:毛細管現象によって塗料がパーツ裏側のテンション部へ回り込むと、乾燥が遅れて浸透が進み、割れの原因になります。
- ABS樹脂部分には「水性マーカー」または「スミいれ用極細(油性顔料)」を使用する:溶剤成分の刺激が極めて弱い水性タイプや、極少量を表面に置くだけのペン先タイプを選ぶことで、樹脂への負荷を完全にシャットアウトできます。