トロッコ問題(トロッコジレンマ)には、主に2つの代表的なシナリオが存在します。1つ目は、制御不能になったトロッコの進路をレバーで切り替え、本線にいる5人を助ける代わりに退避線にいる1人を巻き込む「分岐器(レバー)問題」です。2つ目は、線路の上の歩道橋から1人突き落とすことでトロッコを物理的に止め、5人の命を救う「歩道橋問題」です。
分岐器問題では約8割以上の人が「レバーを引いて1人を犠牲にする」と回答するのに対し、歩道橋問題で「1人を押す」と答える割合は10〜20%程度へと激減します。失われる命が1人、救われる命が5人という結果の数値計算は全く同一であるにもかかわらず、直接的な身体的暴力を伴う行為に対しては、人間の脳が強烈な感情的忌避感を抱くためです。
ここで問われるのが、行為そのものの善悪を問う義務論と、生み出される結果の総量を重視するトロッコ問題の功利主義的アプローチです。客観的に見れば、5人が死亡するよりも1人の犠牲で済むほうが全体の被害は圧倒的に小さく、より大きな価値を守ることができます。この冷徹に見える計算こそが、議論の核心となっています。