SNSの急速な普及に伴い、鞍馬寺の金剛床を巡ってはいくつかの極端な言説や誤解が一人歩きしています。その代表例が「六芒星の中心を踏むとエネルギーを遮断してしまう」「中央の三角は神聖だから踏んではいけない」という、いわゆる六芒星の踏み絵論争です。
調査報道の観点から寺院関係者への取材や境内案内を確認すると、寺院側が「中心を踏んではならない」という教条的な禁止規定を出している事実はありません。金剛床の中心に刻まれた三角は、尊天の三身一体を示す聖なるシンボルであり、参拝者が宇宙の力と調和するための足がかりとして作られています。しかし現在、現場において強い注意喚起がなされているのは、オカルト的な作法ではなく「長時間の占有や順番待ちによるトラブル」という現実的マナーの問題です。
過去数年、中心のポイントに立ち尽くして目をつぶり数分間祈り続ける人や、周囲を遮って自撮り撮影を行う参拝者が急増し、一般の礼拝動線が塞がれる事態が頻発しました。そのため寺務所では「金剛床は撮影会やエネルギー実験の場所ではなく、静かに頭を垂れる祈りの場である」ことを強調しています。中心の印をことさら絶対視するのではなく、本殿金堂の尊天へ向けて謙虚に合掌し、一礼して速やかに次の参拝者へ場所を譲ることこそが、本来の信仰に沿った作法です。
また、ネット上では「鞍馬寺に行くと急激な好転反応で体調を崩す」というオカルトめいた言説も見られます。しかしこれは、京都市街地との気温差(山間部は2〜4度低く冷え込みやすいこと)や、急勾配の山道を一気に登ったことによる急激な心拍数上昇・脱水症状・血糖値低下が主因であるケースがほとんどです。スピリチュアルな解釈に過度にとらわれず、自身の体調と体力を客観的に見つめる姿勢が求められます。