ベーグルを口にしたとき、食パンのふんわり感ともフランスパンのバリッとしたクリスピー感とも異なる、あの独特の「むぎゅっ」とした弾力はどのようにして生み出されるのでしょうか。その鍵を握るのが、普通のパンとベーグルの違いを決定づける「ケトリング(茹でる工程)」です。
一般的なパン作りでは、捏ね上げた生地を一次発酵、成形、二次発酵させたあと、そのままオーブンへと投入します。しかしベーグルは、発酵を極めて浅い段階で抑え、オーブンで焼く直前の生地を85〜90℃前後の熱湯に片面30秒〜1分ほど潜らせる(ケトリングする)という極めて特殊なプロセスを踏みます。
このケトリング茹でる理由には、明確な生化学的根拠があります。
- 表面デンプンの糊化(α化):熱湯にくぐらせることで、生地表面のデンプンが瞬時にゼラチン化し、強固な膜を形成します。
- 水分の内部封じ込め:表面にできた糊化膜がバリアとなり、その後のオーブン焼成中に生地内部の水分が外へ蒸発するのを極限まで防ぎます。
- 生地の膨張抑制:急激な熱で表面が固まるため、オーブンの中で生地がパンのように大きく膨らまず、目がギュッと詰まった高密度のクラム(中身)に仕上がります。
- 独特の艶とヒキ:湯にモルトシロップやハチミツを微量に溶かすことで、焼き上がりにあの美しい艶やかな張りと、引きのある噛み応えが誕生します。
さらに現在、実力派のパン屋で導入が進んでいるのが天然酵母ベーグルのアプローチです。ホップ種やルヴァン種、自家製リンゴ酵母などを用い、15時間以上の冷蔵低温長時間発酵を行うことで、小麦本来のデンプンが自然な糖化を起こします。人工的な添加物に頼らずとも、もちもち食感の秘密である「保水力」と「深みのあるアミノ酸の旨味」が両立するのです。