2023年の代表選考において、世間とメディアを最も驚かせたのが、東京五輪で1試合18アシストの五輪新記録を樹立した世界的司令塔、町田瑠唯の選外理由を巡る議論だった。ネット上やファンの間では「なぜ世界最高峰のパサーを外すのか」「怪我なのか、それとも確執なのか」といった憶測が飛び交った。
日本バスケットボール協会(JBA)関係者への取材や当時の記者会見の発言を総合すると、この決断の背景には女子バスケ日本代表監督 恩塚亨が推し進めた明確な戦術哲学と、複数の現実的要因が複雑に絡み合っていたことが浮き彫りになる。
第1の要因は、恩塚HCが標榜した「原則に基づき、目の前の状況に応じて自ら判断するアジリティバスケット」への戦術的適合である。前任のトム・ホーバス体制では、緻密にデザインされたセットオフェンスの中で町田の卓越したパスセンスと視野が究極の武器として機能した。しかし、恩塚体制では「セットプレーの遂行」よりも「個々がディフェンスのズレを認知し、自らペイントへアタックしてスコアを狙う姿勢」が最優先された。相手ディフェンスがドロップ(後退)してパスコースを塞いできた際、迷わず自らプルアップジャンパーやスリーポイントを高確率で決め切る能力がガード陣に強く求められたのである。
第2の要因は、町田自身のフィジカルコンディションとキャリア設計である。町田は2022年にWNBAワシントン・ミスティクスで過密日程を戦い抜き、心身ともに極限の負荷を抱えていた。2022-23シーズンのWリーグ終了後、左足首などの慢性的ダメージのリカバリーを優先する必要があったことも、合流を見送る客観的理由となった。
恩塚HCが記者会見で語った「世界一のアジリティとエネルギーを発揮し続けられる選手を選ぶ」という言葉通り、女子バスケ日本代表選考基準と真相は、過去の実績や知名度への忖度を一切排し、HCの求める「自ら攻めるスピード&スペースのバスケ」を100%体現できる選手に絞り込んだ結果であった。