通りに面した看板には大きく「井倉木材」の文字。店先に積まれた巨大な銘木の板や木工機械を前に、初めて訪れた人は「本当にここで酒が飲めるのか」と足を止めます。この鮮烈な二面性の背景には、単なる思いつきの話題づくりとは一線を画す、家業の継承と木材文化への深い敬意がありました。
店主である井倉大輔氏は、代々続く木材屋の跡継ぎでありながら、京都の本格的な日本料理店や酒場で研鑽を積んだ異色の経歴を持ちます。木造住宅の着工数減少や集成材・建材のプレカット化に伴い、天然の無垢材に触れる機会が日常から失われつつある現代において、「材木屋という場所に人が集まり、本物の木の手触りや香りを五感で楽しんでもらうきっかけを作りたい」という切実な想いが、この二枚看板の出発点となりました。
夕方17時を回ると、フォークリフトが片付けられ、木材の端材や作業台の上に提灯が灯ります。ノコギリの刃や木工機械がそのまま鎮座する無骨なファクトリー空間と、洗練された割烹の香気が同居する光景は、京都の歴史が培ってきた柔軟な「町場文化」の結晶と言えます。昼の産業空間が夜の祝祭空間へとシームレスに反転する構造そのものが、来訪者に強烈な非日常感と高揚感をもたらしています。