トップ俳優としての地位を確立していた松山ケンイチが、過酷とも言える環境への移住を決意した背景には、「表現者としての危機感」と「子育てにおける確固たる哲学」という2つの決定的な動機が存在していました。
テレビ特番のインタビューにおいて、松山は当時の胸中を次のように吐露しています。
「自分の中にあった引き出しをすべて使い切ってしまい、これ以上演じるべきリアルな感情や経験が空っぽになってしまった感覚があった」
役作りのために体重を数十キロ増減させるなどストイックな演技で知られる彼にとって、台本に書かれた台詞をこなすだけの日常に強い疑問を抱いたといいます。「生きることの根本(衣食住の確保)を自分の手で行うこと」こそが、枯渇した内面を再び満たす唯一の道でした。
さらに、妻である小雪との共通の教育方針も移住を強力に後押ししました。夫妻の間には2012年、2013年、2015年に誕生した3人の子どもがいます。夫妻が目指したのは、敷かれたレールの上を進む教育ではなく、「命の循環を肌で感じ、失敗から工夫を学ぶ実体験教育」でした。スーパーでパック詰めされた肉や野菜を買う生活から離れ、土に触れ、種を蒔き、収穫し、時には生き物の命をいただくという一連のプロセスを日常として体験させることが、2人の譲れない子育ての軸となっています。