出版物の完成度を左右する最後の砦でありながら、長年その仕事ぶりが表舞台で語られる機会は限られていました。その静寂を心地よく破ったのが、牟田都子氏による名著『文にあたる』(亜紀書房)です。本書は刊行直後からSNSや書評欄を席巻し、発売から年月を経た今もなお版を重ねる異例のロングセラーとなっています。
読者が引き込まれる最大の要因は、校正という作業を単なる「間違い探し」として描いていない点にあります。自著の中で牟田氏は、校正者の役割を「著者の思考の痕跡を丁寧に辿り、読者に届くまでの橋渡しをする存在」と定義しました。誤植を赤字で糾弾するのではなく、事実関係を地道に裏付け、疑問点を鉛筆でそっと差し出す。その控えめでありながら徹底的なプロフェッショナリズムが、作り手だけでなく一般の読書家の心をも掴んでいます。