「あっちょんぶりけ」を口にするとき、ピノコは必ずと言っていいほど両手の手のひらや指先で自分の両頬を挟み、タコのように口をすぼめる仕草をとります。このコミカルなポーズが定着した背景には、手塚治虫が持つアニメーション的かつ身体表現に対する徹底したこだわりが存在します。
漫画という静止画の表現において、感情の爆発を読者へ瞬時に伝えるためには、言葉だけでなく記号化された強烈なアクションが必要不可欠でした。頬を圧迫して顔を歪ませる動作は、幼い子どもが駄々をこねたり、感情を全身で爆発させたりする際の無邪気な身体反応そのものです。愛嬌のある丸顔を押しつぶすビジュアルは、重厚で時に陰惨な医療ドラマが続く『ブラック・ジャック』の物語において、読者の緊張を解きほぐす絶妙な「息抜き(コミックリリーフ)」の役割を果たしました。