そもそも連れ込み宿の意味とは、主に男女が一時的な休息や性的な逢瀬を目的に利用した和風の簡易宿泊施設を指します。その源流を辿ると、江戸時代から花街に存在した「待合茶屋(まちあいぢゃや)」や、明治から戦前にかけて発達した「同伴旅館」に行き着きます。芸妓と客が密会する場、あるいは密かな男女の逢瀬の場として機能していた空間が、戦後の社会変動とともに大衆化していきました。
本格的に連れ込み宿の歴史が大きく動き出したのは、1950年代後半のことです。1958年(昭和33年)の売春防止法施行によって公娼制度の名残であった赤線地帯が廃止されると、それまで特殊飲食店として営業していた業者が一斉に旅館業へと転換を図りました。これにより、歓楽街周辺に無数の連れ込み宿が誕生することになります。
さらに見逃せないのが、当時の日本の住環境です。高度経済成長期の都市部では、四畳半一間に親子や兄弟が肩を寄せ合って暮らす長屋や木造アパートが一般的で、家屋内に夫婦間のプライバシーは皆無に等しい状態でした。つまり連れ込み宿は、不貞や風俗利用のためだけでなく、一般の夫婦が健全な夫婦生活を営むための「駆け込み寺」としても機能していたという歴史的側面を持っています。