北海道のフィールド研究や報道各社の取材データが示すとおり、ヒグマの肉食化が進む決定的な理由は「エゾシカの生息数爆発」と「学習効果」にあります。北海道内のエゾシカ推定生息数は数十万頭規模で高止まりしており、冬の豪雪や給餌制限で衰弱死したシカの死骸(キャリオン)をヒグマが食べる機会が激増しました。
当初は死肉をあさる「スカベンジャー(腐肉食者)」だった個体が、やがて動けない子鹿を捕え、さらには成獣のシカを自力で狩るスキルを獲得していきます。高カロリーな動物性脂肪の味と満腹感を覚えた個体は、膨大な時間をかけて木の実を探すよりも、シカを狙うほうがエネルギー効率が良いことを学習するのです。
その極端な適応例として日本中を震撼させたのが、標茶町・厚岸町周辺で牛を襲撃し続けた「OSO18」の事件経緯です。OSO18は放牧中の乳牛を背後から襲い、内臓や肉を削ぎ落として食害を繰り返しました。極度の警戒心からカメラや罠を巧妙に回避し続けた背景には、人間社会の気配を熟知しながら家畜という安全かつ高栄養なタンパク源を効率よく奪う特異な行動パターンがありました。最終的に駆除されたOSO18の胃内容物や筋肉同位体分析からも、高比率の肉食傾向が科学的に裏付けられています。