21cmというキリの良い数字に対して、縦が29.7cmという半端な数値になっているのはなぜでしょうか。「縦をきっちり30cmにすれば分かりやすかったのではないか」と感じる方も多いはずです。しかし、ここには紙の製造・流通において無駄を極限まで削ぎ落とすための天才的な数学的計算が隠されています。
その核心にあるのが、短辺と長辺の比率が「1 : √2(約1 : 1.4142)」となる白銀比(ルート長方形)です。日本古来の寺社建築や仏像の造形にも見られるこの比率には、幾何学上のある特異な性質があります。「長辺を真ん中で半分に折っても、縦横の比率が全く変わらない相似形になる」という点です。
もし紙の比率が「1:1.5」や「3:4」だった場合、半分に折ると比率が崩れ、元の形とは違う寸胴な長方形になってしまいます。しかし白銀比であれば、折っても折っても同じプロポーションを永久に保ち続けます。この仕組みにより、巨大な原紙を半分に裁断していく過程で、紙くずや端材のロスが一切発生しません。
A列の規格は、面積がちょうど1平方メートル($1m^2$)になる白銀比の紙を「A0(841mm × 1189mm)」と定義したところから始まります。これを順に半分に折っていくと、以下のようになります。
- A0:841mm × 1189mm(面積 $1m^2$)
- A1:594mm × 841mm(A0を半分にカット)
- A2:420mm × 594mm(A1を半分にカット)
- A3:297mm × 420mm(A2を半分にカット)
- A4:210mm × 297mm(A3を半分にカット)
数学的に $1m^2$ から計算すると、長辺は $\sqrt{\sqrt{2}} \approx 1.1892\dots m$、短辺は $\sqrt{1/\sqrt{2}} \approx 0.8408\dots m$ となり、ミリ単位で四捨五入した結果が「841mm × 1189mm」です。これを4回半分にした結果、論理的帰結として横210mm × 縦297mm(21.0cm × 29.7cm)という寸法が生まれたのです。
この規格の起源は、18世紀後半にドイツの物理学者ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルクが提唱した比率論に遡ります。その後、1922年にドイツ工業規格「DIN 476」として成文化され、現在では国際標準化機構による「ISO 216」規格として世界140カ国以上で統一基準として運用されています。オフィスにある複合機の拡大・縮小ボタンに「141%($\sqrt{2}$倍)」「71%($1/\sqrt{2}$倍)」という決まった数値が存在するのも、まさにこの白銀比の幾何学的性質に基づいているからです。