革堂行願寺を語る上で欠かせないのが、寺宝として伝わる「幽霊絵馬(ゆうれいえま)」にまつわる伝説です。オカルト的な怪談として語られがちですが、その真相は江戸時代に生きた名もなき親子の痛切な愛情の記録です。
江戸時代後期、質屋に奉公していた「お露(つゆ)」という名の子守娘がいました。お露は信心深く、守りを任されていた奉公先の子守歌代わりに革堂の御詠歌を口ずさんでいたといいます。しかし、熱心に手を合わせるお露の姿を快く思わなかった主人が、言いがかりをつけて折檻し、誤って命を奪って庭に埋めてしまいました。
愛娘の行方不明を不審に思った両親が必死に探す中、お露の霊が両親の夢枕に立ち、自らの非業の死を告げました。真相を知った両親が遺体を引き取り手厚く葬った後、娘の菩提を弔うために絵師に描かせ、お露が生前愛した革堂行願寺に奉納したのがこの絵馬です。絵馬には、透き通るような姿で赤子を抱く女性の姿が生々しく描かれています。
単なる恐怖の対象ではなく、「理不尽に散った魂を救済する観音信仰の象徴」として、現在も大切に保管されています。例年8月下旬の地蔵盆前後に特別開扉される機会があり、多くの参拝者がその切ない親子の絆に静かに手を合わせています。