昭和61年(1986年)6月5日、日本クラウンからリリースされたシングル『北の漁場』は、演歌界の巨頭・北島三郎のキャリアにおける決定的な分岐点となった一曲です。当時の歌謡界はアイドル全盛期の真っ只中にあり、演歌にはかつてないほどのスケール感と歌唱の説得力が求められていました。
その難局を打ち破るべく結集したのが、作詞を手がけた新本創司と、作曲・編曲を担当した桜庭伸幸という異色の布陣です。従来の叙情的な旅情演歌や哀愁歌とは一線を画し、打ち寄せる高波を想起させるブラスセクションと重厚なストリングス、そしてうねるようなリズム隊の融合。クラシックやポップスのアレンジにも精通していた桜庭伸幸によるシンフォニックな音作りが、北島三郎の唯一無二のダイナミックな歌唱力と完璧に共鳴しました。
当時の制作特番インタビューや手記において、北島三郎自身は「生半可な声の出し方では、この曲の荒波に呑み込まれてしまう。自分の歌手生命を懸けて、喉の奥から魂を絞り出すようにレコーディングに挑んだ」と述懐しています。一切の妥協を排した過酷なボーカルテイクの末に完成したこの楽曲は、同年の「第28回日本レコード大賞」において見事に最優秀歌唱賞を獲得。昭和の終わりを告げる時代の中で、揺るぎない演歌の底力を日本中に見せつけました。