表現の歴史を振り返れば、技術的完璧さよりも個性が勝利を収めた例は枚挙に暇がない。ポピュラー音楽の潮流を決定づけたロックの領域において、ボブ・ディランの存在はその象徴と言える。従来の美声の定義を根底から覆し、ダミ声で押し通す彼のスタイルは当初賛否両論を巻き起こしたが、言葉の重みと圧倒的なリアリティで世界を揺るがし、最終的にはノーベル文学賞を受賞するに至った。歌唱力という単一の尺度が、表現の本質に対していかに無力であるかを示す典型例だ。
一方、日本の芸能界およびJ-POPの文脈において、元SMAPの中居正広が果たした役割も極めて興味深い。彼は自らの歌唱力をバラエティ番組などでオープンなネタにしつつも、グループの楽曲やライブにおいては絶対的なアクセントとして機能し、国民的な人気を揺るぎないものにした。かつてNHK紅白歌合戦の舞台で見せた彼の堂々たるパフォーマンスは、技術を超えた「エンターテインメントとしての歌」の真髄を証明してみせた。完璧に歌うことだけが歌手の価値ではないという事実を、日本中の視聴者に焼き付けた瞬間だった。