デビュー当時、宇多田ヒカルはテレビの音楽番組にほとんど出演しなかった。ラジオ番組や限られたメディア露出のみという戦略は、結果として彼女の「謎めいた天才少女」というイメージを決定づけた。情報過多の現代において、この「見えなさ」はむしろ新鮮に映る。
そして、彼女の歌声の奥底に流れる、どこか哀愁を帯びた響き。それは母である藤圭子が持っていた怨歌(えんか)のソウルと無関係ではないだろう。アメリカの最先端のR&Bを纏いながらも、その根底には日本人の琴線に触れる「湿り気」がある。この二面性こそが、彼女を特別な存在にした。