インターネット上の掲示板やSNSでは、時折「浅間山荘事件での露出は、日清食品創業者・安藤百福が警察幹部に働きかけたステルスマーケティングだったのではないか」という憶測が囁かれることがあります。しかし、当時の警備記録や警察関係者の回顧録を精査すると、事前の宣伝工作説は明確な事実無根のデマであることが分かります。
当時、現場警備幕僚長として指揮を執った佐々淳行氏の手記『連合赤軍「あさま山荘」事件』をはじめとする一次資料によれば、カップヌードルを選定したのは警務部装備課および後方支援を担当した警察ロジスティクスチームです。「凍らない温かい食料を確保せよ」という現場の悲鳴を受け、地元長野の問屋や駐屯物資の中から即席調達可能な資材として手配されたにすぎません。
安藤百福氏自身も、自著や後年のインタビューにおいて「テレビ中継を見て驚いた。あれ以上の生きたコマーシャルはなかった」と述懐しています。作為的なプロモーションではなく、「どのような極限状態でも熱湯さえあれば機能する」というプロダクトの本質的価値が、歴史的危機と巡り合った結果でした。