長崎・油屋町の写真館でこのシャッターを切ったのは誰なのか。長年、日本写真界の草分けである上野彦馬の手によるものと信じられてきたが、研究者の間ではその弟子である井上俊三の撮影説が有力視されてきた。
今回の科学調査は、スタジオ内の採光と調度品に焦点を当てた。龍馬が肘を置く台座の木目、床に落ちる光の入射角、そしてレンズ特有の周辺減光。これらを上野彦馬と井上俊三がそれぞれ残した他の幕末古写真と徹底的に照合した結果、撮影スタジオの空間構造が井上俊三の構えた支店の仕様と完全に一致することが実証された。師の看板の陰に隠れていた若き写真家の技術が、百数十年を経て正当に証明された瞬間だった。