なぜ今、この脳内クリーニング機能が世界中の神経科学者から切実に研究されているのか。その最大の理由は、アルツハイマー型認知症の発症トリガーとされる「アミロイドβ」および神経原線維変化を引き起こす「異常リン酸化タウタンパク質」の凝集・蓄積を直接ブロックする防壁だからです。
これまでの臨床統計および画像解析技術の進展により、アミロイドβは認知機能の低下や物忘れといった自覚症状が現れる15〜20年も前から、脳内で静かに蓄積を開始していることが判明しています。覚醒中に産生されたアミロイドβは、本来であれば夜間のグリンパティックシステムによって速やかに分解・排出されます。しかし、睡眠障害や加齢によってこのシステムの排出効率が低下すると、間質内に残留したタンパク質がオリゴマー化し、プラークを形成して神経細胞を死滅させていく負の連鎖に陥ります。
特に重要な鍵を握る分子が、アストロサイトの足突起に局在する水チャネルタンパク質「アクアポリン4(AQP4)」です。最新の分子生物学的知見によると、AQP4が血管周囲に整然と配置されている状態(局在の極性)が保たれている場合、脳脊髄液のスムーズな対流が維持されます。一方、慢性炎症や加齢、持続的な睡眠不足に晒された脳内ではAQP4の配置が乱れ、水チャネルとしての機能不全を起こすことが突き止められました。つまり、脳内の老廃物排出メカニズムを健全に保つことこそが、将来の認知症発症リスクを構造的に引き下げる最も合理的かつ実効性の高いアプローチといえます。