「なぜエンドリケリーなのか」という問いの答えは、彼が自宅のリビングで飼育していた一匹の魚にあります。学名をポリプテルス・エンドリケリー・エンドリケリー(Polypterus endlicheri endlicheri)と呼ぶこの生き物は、恐竜が地上を闊歩していた白亜紀以前から姿を変えずに生き残ってきたアフリカ原産の淡水魚です。背びれに小さな小羽状の突起をいくつも持ち、肺呼吸を行うための原始的な気嚢を備えています。
当時の特番インタビューや自著・手記で語られた回想によると、10代から20代前半にかけての堂本剛は、過激化するメディア露出や虚像の肥大化、突発的なパニック障害の発症に深く苦悩していました。四方を分厚いガラスで囲まれた水槽のなか、重い鱗を纏って底を這い、時おり酸素を求めて必死に水面へと浮上するエンドリケリーの姿を見た瞬間、彼は「これは自分自身だ」と直感したと明かしています。
逃げ場のない芸能界という水槽の中で、それでも息を吸い、自らの命を繋ぐためのアイデンティティ。それが「エンドリケリー」というアバターでした。「堂本剛」という看板に寄せられる無数の要求やパブリックイメージから一度精神を切り離し、純粋な音楽表現者としての呼吸を取り戻すための聖域として、この奇妙で愛おしい古代魚の名が選ばれたのです。