ネット上のレシピ記事などで散見される最大の誤解が、「手元にある普段のアラビカ種(モカ、キリマンジャロ、エチオピア等)を深煎りにして練乳を入れれば、ベトナムコーヒーになる」という言説です。これは味わいの設計思想において完全な誤りと言わざるを得ません。
現代のサードウェーブコーヒーで愛されるアラビカ種は、柑橘系やベリー系のフルーティーな酸味(果実酸)が大きな魅力です。しかし、この酸味が残ったコーヒーに大量の練乳を加えると、柑橘の酸と乳成分の甘さが不協和音を起こし、舌に残る嫌な酸っぱさと濁った甘みに変質してしまいます。
ベトナムコーヒーの爽快なビター感は、酸味が極めて少なく、焦がしキャラメルや土っぽいアーシーな苦味を持つロブスタ種だからこそ成立します。もしアラビカ豆で代用せざるを得ない場合は、酸味が完全に消え去るまで深く焼き上げた極深煎り(フレンチロースト〜イタリアンロースト)のマンデリンやブラジルを選定し、酸味を極限まで排除することが最低条件です。