日本有数のコリアンタウン・新大久保のすぐ裏手に、突如として現れる白亜のゲートと円柱群。予備知識なしに訪れた人の多くが「なぜこの場所にギリシャ風の広場があるのか」と強い違和感を抱きます。その答えは、文豪ラフカディオ・ハーンのあまりにも波乱に満ちた出自と、新宿区が積み重ねてきた国際交流の歩みにあります。
『怪談(Kwaidan)』で日本の土着信仰や幽霊譚を世界へ紹介した小泉八雲は、1850年6月27日、イオニア海に浮かぶギリシャのレフカダ島で生を受けました。アイルランド出身の軍医である父と、ギリシャの名門出身の母との間に生まれた彼のファーストネーム「ラフカディオ」は、島の名(Lefkada)に直接由来しています。幼少期に両親の別離を経験し、イギリス、フランス、アメリカへと渡り歩いた彼は、1890年に来日。松江、熊本、神戸、東京・市谷を経て、1902年(明治35年)にこの新宿大久保へと居を移しました。
新宿区は1992年(平成4年)、大久保の地で息を引き取った八雲の功績を末永く後世に伝えるため、この記念公園を開園しました。設計にあたっては、彼が産声をあげたギリシャ・レフカダ市との友好の絆を象徴すべく、古代ギリシャの神殿を想起させるイオニア式の石柱やパーゴラ(藤棚)、円形コロネードが意図的に配置されました。つまり、この公園は単なる児童遊園ではなく、「八雲の生誕地(ギリシャ)」と「八雲の終焉の地(東京・新宿大久保)」を結ぶ文化的な架け橋として誕生した空間なのです。